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バイクの技術と歴史を、一次情報にあたって確かめる記事を書いています

振動を消すためではなかった──ブラックバードが2軸バランサーを積んだ理由

CBR1100XXは、もともと振動の少ない並列4気筒に、わざわざ2軸のバランサーを入れていました。何のためだったのか。3年で王座を明け渡した1台の設計を整理します。

「3年で抜かれたバイク」

1996年に世界最速を獲り、1999年に隼へ譲る。わずか3年です。

この記事で確かめたいのは、このバイクが何を狙って作られたのかです。

調べていて、いちばん意外だったのがこれでした。振動の少ない並列4気筒に、わざわざ2軸のバランサーを入れている。しかも、振動を消すためではありませんでした。

まず、諸元から

開発の狙いは、記録にはっきり書かれています。

世界最速モデルの座を目指して開発したCBR1100XX

迷いのない目標設定です。 そして当時の状況はこうでした。

当時のライバルは300km/hを豪語したZZR1100、後にGSX1300RハヤブサにニンジャZX-12Rとフラッグシップが居並ぶ世界

最速争いが、メーカーの威信をかけた戦場だった時代の1台だといえます。

2軸バランサーの、本当の理由

ここが本題です。

そもそもバランサーとは、エンジンの振動を打ち消すための重りです。単気筒や二気筒のように振動が大きいエンジンに入れるのが普通で、並列4気筒はもともと振動が少ないため、必須ではありません。

ところがCBR1100XXは、2軸を積んでいます。理由が、こう書かれています。

2軸のバランサー。振動の少ない4気筒に、スムーズさだけでなくダイナミックさを加味するため、敢えてふたつのバランサーを駆動している

「ダイナミックさを加味するため」。

振動を消すためではありません。消えすぎた振動を、意図した形に作り直すためという説明になります。

普通のバランサーとCBR1100XXの2軸バランサーの目的の違い。普通は大きな振動を打ち消して小さくするが、CBR1100XXは振動の少ない4気筒にダイナミックさを加味するために使った
同じ「バランサー」でも目的が逆向きです。消すためではなく、手応えを作るために積んでいます

これは、かなり踏み込んだ設計思想です

振動をゼロに近づけるのは、技術的には「正解」に見えます。 ですが、まったく振動のないエンジンは、何が起きているか手に伝わってきません。

いま何回転で、どれだけ負荷がかかっていて、路面をどう捉えているか。 私たちはそれを、かなりの部分、振動から読み取っています。

300km/hを目指すバイクだからこそ、無感覚では困るという判断があったのだと読めます。

空力の話

もうひとつ、外せない要素です。

フォルムはひたすら空力を求め

300km/hという速度域では、空気抵抗が支配的になります。

抵抗は、おおむね速度の2乗に比例して増えます。速度を2倍にすれば抵抗は4倍。それを押しのけるために必要な力は、さらに速度をかけた分——つまり速度の3乗に近い勢いで増えていきます。

200km/hから300km/hへの100km/hは、100km/hから200km/hへの100km/hとは、まるで別物。 出力だけでは届きません。

速度と空気を押しのけるのに必要な力の関係を示したグラフ。必要な力は速度の3乗に近い勢いで増えるため、200から300km/hへの100km/hは、100から200km/hへの100km/hよりはるかに大きな力が要る
同じ「+100km/h」でも、必要な力の増え方はここまで違います。だから空力を磨くしかありません

CBR1100XXのあの丸みは、当時のホンダが空気に対して出した答えそのものだといえます。

3年で終わったのか

1999年、隼が登場します。

ただ、「負けた」という話にしてしまうと、見落とすものがあると思います。

CBR1100XXは2006年頃まで販売されました。最速の座を降りたあとも、10年近く売られ続けているわけです。

最速を狙って作られた車体は、最速でなくなっても、高速域で余裕のあるツアラーとして通用しました。300km/hのために作った空力と車体剛性は、150km/hで走っているときにこそ効いてくるからです。

王座は3年。商品としては10年。 どちらがこのバイクの実像かは、見る人によって変わるのではないでしょうか。

いま中古で見るなら

コメント欄から

この動画には180件のコメントをいただきました。いちばん多かった反応は、動画の言い方への異議です。

視聴者コメント

いや、この当時の開発競争で3年も保持したなら、たった3年という表現おかしいんじゃない。

このご指摘は受け止めます。 同趣旨のコメントが数百いいね規模で複数並びました。FJ1100からニンジャ、GSX-R1100と、当時の最速の座が数ヶ月から1年程度で塗り替えられていった歴史を挙げてくださった方もいます。その文脈で見れば、3年は「たった」ではなく「3年も」守った数字です。動画は60秒のオチとして「3年」を短さの側で使いましたが、記事本文で書いた通り「王座は3年、商品としては10年」——どちらの見方も成り立つ数字として訂正的に補足しておきます。

視聴者コメント

いや、ブラバは空気読んでたんだよ。300キロ超えたらお国が黙っていないだろう…と。そしたら隼が空気読まずに300超えたからEUで規制されちゃったんだよ😅

「ホンダは自制していた」という説です。真偽を確かめられる一次資料は見つかっていませんが、隼の登場後に速度の上限が生まれたという時系列そのものは、スズキの公式インタビューの記述とも整合します。この顛末は隼の記事で扱っているので、あわせてどうぞ。

視聴者コメント

なぜか中古価格が激安で超速バイクを格安で手に入れるのには最適なバイクなんですよね

実用情報として、これは載せておきたいコメントです。 最速の座を譲ったこと、そして長く売られて流通量があることが、中古価格には「割安」として表れているようです。記事の「いま中古で見るなら」に書いた通り、キャブ仕様とインジェクション仕様の違い、バランサー駆動系の整備履歴だけ確認して選べば、300km/hのために作られた車体の余裕を、常識的な価格で味わえることになります。

出典

引用元

  • RIDE HI「スーパーブラックバードCBR1100XXにみるホンダの孤高なるフラッグシップ定義!」(1996年誕生/米空軍SR71の別名にあやかった命名/世界最速モデルの座を目指して開発/300km/hを実現/新開発の1,137cc水冷DOHC16バルブ4気筒から163ps/2軸のバランサー。振動の少ない4気筒に、スムーズさだけでなくダイナミックさを加味するため、敢えてふたつのバランサーを駆動している/フォルムはひたすら空力を求め/当時のライバルはZZR1100、後にGSX1300RハヤブサとニンジャZX-12R):ride-hi.com

確認できていないこと

  • ホンダ公式によるCBR1100XXの技術解説ページ。メーカー自身の資料は確認できませんでした
  • 販売終了年の正確な時期。「2006年頃」は一般に流通している情報で、公式資料での裏付けは取れていません
  • キャブレター仕様からインジェクション仕様への変更年

本記事のチェックポイント

  • 1996年誕生。1,137cc・163ps・300km/hを実現
  • 2軸バランサーは振動を消すためではなく、「ダイナミックさを加味するため」
  • 振動をゼロにしないという判断。手に情報を残すための設計です
  • 300km/h域では空気抵抗が支配的。あの丸みは空力の答えです
  • 最速の座は3年。ただし商品としては10年近く売られ続けました

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