B-KINGから過給機が消えた日──ハヤブサと同じ表に並べると見えるもの
30万回見ていただいた動画の補足です。過給機の搭載は、2001年のスズキ公式リリースにはっきり書かれていました。ただし出力の数字はありません。スズキの2001年・2007年の発表文と、正規輸入元モトマップのスペックシートで、B-KINGとハヤブサを並べ直します。
「隼のエンジンに過給機を積んだバケモノ」──B-KINGと聞いて、まずこの一行を思い出す方は多いのではないでしょうか。
ただ、実際に買えたB-KINGに過給機はありません。それどころか、ハヤブサと同じ表に数字を並べてみると、最高出力はハヤブサより10.0kW低く、乾燥重量は15kg重く、燃料タンクは4.5L小さく、そして車体価格は94,500円高い、という並びになります。
数字はすべて、スズキ二輪の正規輸入元であるモトマップが公開している2008年モデルのスペックシートのものです。同じ2008年モデル、同じ仕向地(カナダ仕様)の、それぞれのスペックシートから拾いました。
動画では60秒の尺の都合で「過給機が消えた」というオチに絞りましたが、消えたのは過給機だけではなかった、という話をここで補足します。
過給機は、スズキ公式にはっきり書かれていた
まず、過給機の話から片づけます。これはスズキ自身の発表文に、明確に書かれていました。
2001年10月17日、第35回東京モーターショーへの出品概要としてスズキ広報が出したリリースに、こうあります。
● B−KING(ビーキング) 「Hayabusa 1300」のエンジンにスーパーチャージャーを装着したパワーユニットを搭載。力強い近未来的デザインの車体と、携帯電話やGPSの利用といったIT技術を融合した新しい二輪車の世界をコンセプトモデルとして提案する。
「装着した」と言い切っています。 噂でも後付けの解説でもなく、メーカーが自分で書いた一文です。しかも、当時のスズキ二輪ブースのテーマは「Power to the Future」でした。
ただし、この一文に出力の数字はありません。 よく語られる「240馬力」「250馬力」という数字を、私はスズキの資料の中に見つけられませんでした。タイヤサイズ(前150/後240)についても同じです。海外メディアや専門メディアには載っていますが、一次資料にはたどり着けていません。
そして2007年、市販化の発表文から過給機が消える
6年後、市販化が発表されます。2007年の東京モーターショーに合わせたスズキのグローバルニュースには、B-KINGについてこう書かれています。
The concept becomes reality. Unveiled in concept form at the 2001 Tokyo Motor Show, the B-King is Suzuki's flagship big naked bike. The production model is completely faithful to the concept seen in 2001 but embodies new functions such as S-DMS, and performance advances that make it even more appealing to riders.
「コンセプトが現実になった」「2001年のコンセプトに完全に忠実」。そして、加えられたものとして名前が挙がっているのは、過給機ではなく S-DMS(走行モードを2つから選べる制御)です。
正規輸入元モトマップの日本語の概説も、同じ趣旨で書かれています。
2001年の東京モーターショーで姿を現したコンセプトモデルは、まさにスタイリングの革命をもたらした。そして、そのコンセプトはついに現実のものとなって、再び現れた。
2001年のリリースには過給機がある。2007年の市販車の説明には出てこない。それでも「完全に忠実」と書かれている。 この3つを並べると、スズキが「忠実」と言ったのは動力側ではなく、別のところだったのではないか、と読めてきます。
この読み方は私の解釈です。 スズキが「シルエットの意味で忠実だ」と説明したわけではありません。ただ、次の表を見ていただくと、そう読みたくなる理由は伝わると思います。
ハヤブサと同じ表に並べる
では、確認できた数字を並べます。出典はどちらもモトマップの2008年モデルのスペックシートです。
| B-KING | HAYABUSA1300 | |
|---|---|---|
| 総排気量 | 1,340cm³ | 1,340cm³ |
| ボア×ストローク | 81.0×65.0mm | 81.0×65.0mm |
| 圧縮比 | 12.5:1 | 12.5:1 |
| 最高出力 | 135.0kW | 145.0kW |
| 乾燥重量 | 235kg(ABS 239kg) | 220kg |
| 燃料タンク | 16.5L | 21L |
| 後タイヤ | 200/50ZR17 | 190/50ZR17 |
| ホイールベース | 1,525mm | 1,480mm |
| 車体本体価格 | 1,659,000円(ABS 1,732,500円) | 1,564,500円 |
スペックシートで確認できる範囲では、ボア、ストローク、圧縮比まで同じです(吸排気やエンジン制御の中身までは、この資料からは分かりません)。同じ1,340cm³が、片方では145.0kW、もう片方では135.0kW。その差、10.0kW。 1PS=0.7355kWで換算すると、およそ197PSとおよそ184PSということになります。
カウルが無いぶん、最高速では不利になりやすい。 それは動画でも触れたとおりです(最高速の公式値は両車とも確認できていないので、ここは一般論として書きます)。ただ、B-KINGが引き受けたのは空気抵抗の不利だけではなかった、というのがこの表の意味するところではないでしょうか。出力で負け、重さで負け、タンクで負け、値段でも負けている。 そのうえで「ネイキッドだから最高速は不利」が乗ってきます。
それでも、後輪だけは太くなっていた
ただ、ひとつだけB-KINGが上回っている行があります。後タイヤです。
ハヤブサの190/50ZR17に対して、B-KINGは200/50ZR17。10mm太い。前タイヤは120/70ZR17で両車とも同じですから、後ろだけが選ばれて太くされていることになります。
ホイールベースも1,480mmから1,525mmへ、45mm伸びています。全幅800mmという数字も、ハヤブサの735mmより65mm広くなっています。
つまり、削られたのは動力性能側で、残されたのは「見た目の圧」を作る寸法のほうでした。スズキ公式の「コンセプトに完全に忠実」という一文を、この記事では外観側の継承を指していると読みました。 メーカーがそう説明したわけではないので、あくまで表から読み取れる範囲の解釈です。
タンクが4.5L小さいということ
コメント欄でいちばん多くのいいねが付いたのが、この指摘でした。
そのカバーのせいかタンク容量が犠牲になったという
タンクが小さいこと自体は、スペックシートで裏が取れます。 16.5Lと21L。その差4.5L。
ただし、「あのカバーのせいで」という理由の部分は、スズキ側の説明を見つけられませんでした。 モトマップのフィーチャーページはスタイリングについて「それぞれ大きく張り出して造形されている燃料タンク、シートカウルとマフラー」と書いているだけで、容量との関係には触れていません。因果の部分は、確認できていません。
では4.5Lの差が何を生むか。燃費が同じだと仮定すれば、満タンで走れる距離はおよそ2割短くなる計算です(16.5÷21=約0.79)。実際の燃費は乗り方で変わりますから断定はできませんが、ツーリングでの給油の間隔が一段短くなる、という程度のことは言えると思います。
「最高速のためにすべてを捨てた」ような一台に見えて、実際に日常で効いてくるのは、この4.5Lのほうかもしれません。
いま、現物で確かめられること
モトマップに掲載されているのは2008年モデルのページが最後ですが、確かめられることはいくつも残っています。
- 後輪の側面を見る。
200/50ZR17と刻まれています。同年式のハヤブサは190/50ZR17。中古車店で2台が並んでいたら、後ろから見比べてみてください - タンクの給油口を開ける。 カタログ値16.5L。ハヤブサの21Lとの差は、実際に給油してみるといちばん体で分かります
- シート下のマフラーを見る。 モトマップの記述どおり「4-into-2-into-1」で、シート下に2本の排出口が並びます。マフラーエンドとシートカウル後端が、どちらもスラッシュカットで揃えられています
- メーターでS-DMSを切り替える。 市販モデルで新機能として名指しされたのが、この2モード切り替えです。A・Bの2つのエンジン制御マップを選べます
- フロントブレーキのキャリパーを覗く。 ニッシン製のラジアルマウント4ピストンで、モトマップの記述ではリーディング側30mm・トレーリング側34mmとピストン径が前後で違います。同じ資料は、この異径を「パッド全面にわたり均一な制動力を確保する」ためと説明しています
この記事で確認できなかったこと
- コンセプト時の想定出力(240馬力/250馬力)を示すスズキの資料(過給機の搭載自体は2001年のリリースに明記されています)
- コンセプト時のタイヤサイズを示すスズキの資料
- 燃料タンクが16.5Lになった理由についてのメーカー側の説明
- 生産終了時期の公式発表(モトマップに掲載されているのは2008年モデルのページのみです)
コメント欄から
114件のコメントをいただきました。数字の裏が取れたものから順に見ていきます。
しかも元のハヤブサより高いという。
これは裏が取れました。 モトマップの2008年モデルの参考価格で、B-KINGが1,659,000円、HAYABUSA1300が1,564,500円。差額94,500円。 ABS付きの1,732,500円で比べると、差は168,000円になります。同じエンジンを積んで、出力は10.0kW低く、重量は15kg重く、それで9万円以上高い。この一行のインパクトは、表にして初めて分かりました。
実はフレームにも吸入口の名残と思われる穴が残ってまして、最後まで過給機の搭載を検討していたんだろーなと思いました
これは、現物を見ている方でないと書けない指摘です。 ただ、その穴が過給機のためのものだったという記述は、スズキの資料でもモトマップの資料でも確認できませんでした。 フレーム側の穴には軽量化や配線・配管の取り回しなど別の目的もありえますので、この記事では「そう見える穴がある」というところまでにとどめます。もし現車で位置や形が分かる方がいらしたら、ぜひコメントで教えてください。
昔乗っていたけど、とんでもない加速力だった。 フル加速だと横の視界がボヤけるのだけど、そんなの色々乗ってきて唯一の体験だった…
ここまで数字で「負けている」と書いてきましたが、135.0kWは135.0kWです。 ハヤブサより10.0kW低いというだけで、絶対値としては十分すぎるほどあります。しかもカウルが無いぶん、風はまともに来ます。同じ加速でも、体感の情報量はB-KINGのほうが多いはずです。 数字の比較は「どちらが優れているか」ではなく「何を選んだ結果か」を読むためのもの、という前提はここで書き添えておきます。
コンセプト発表から市販までが遅すぎたしデザインもスペックもしょぼくなって大コケした悲しいマシン
2001年10月の第35回東京モーターショーから、2007年秋のコンセプト市販化発表まで6年あります。この6年という間隔は事実です。ただ、「大コケした」を裏づける販売台数のデータは、今回見つけられませんでした。 車種別の販売実績は公表されておらず、確認できませんでした。売れ行きについては、この記事では判断を保留します。
クソデカマフラーも継承されてるやろがい!
これも、そのとおりです。 モトマップのフィーチャーページは、大きく張り出した燃料タンク・シートカウル・マフラーと、絞り込まれたヘッドライトまわりの対比をスタイリングの説明として挙げています。「張り出す」と「絞る」を意図的に両立させたデザインだったわけで、あのマフラーは削られなかった側です。
出典
引用元
- スズキ グローバルニュース「Suzuki at the 2007 Tokyo Motor Show」(2007年10月1日/"The concept becomes reality." "completely faithful to the concept seen in 2001" "new functions such as S-DMS"):globalsuzuki.com
- スズキ株式会社 広報「第35回東京モーターショーへの出品概要」(2001年10月17日/「Hayabusa 1300」のエンジンにスーパーチャージャーを装着したパワーユニットを搭載/携帯電話やGPSの利用といったIT技術/二輪車ブースのテーマ「Power to the Future」):suzuki.co.jp
- スズキ グローバルニュース「The 35th Tokyo Motor Show」(2001年10月24日/会期・会場・出展テーマ "Make it Unique"):globalsuzuki.com
- モトマップ(スズキ二輪 正規輸入元)2008年モデル B-KING/B-KING ABS 概説・フィーチャー・スペックシート(1,340cm³/135.0kW/乾燥重量235kg・ABS239kg/燃料タンク16.5L/200/50ZR17/車体本体価格1,659,000円・ABS1,732,500円/仕向地カナダ):motomap.net
- モトマップ 2008年モデル HAYABUSA1300 スペックシート(145.0kW/乾燥重量220kg/燃料タンク21L/190/50ZR17/車体本体価格1,564,500円):motomap.net
確認できていないこと
- コンセプト時の想定出力(240馬力/250馬力)とタイヤサイズを示すスズキの資料は見つけられませんでした。過給機の搭載自体は2001年のリリースに明記されています
- 燃料タンク容量が16.5Lになった理由についてのメーカーの説明は確認できていません
- 生産終了時期についての公式発表は確認できていません
- 販売台数の実績は公表されておらず確認できないため、売れ行きの評価はしていません
注記
- 価格はいずれも当時の参考価格(消費税5%込み)です。現在の価格・税率とは異なります
- スペックは仕向地により異なります。本文の比較は、どちらもモトマップ掲載のカナダ仕様の数値です
本記事のチェックポイント
- 過給機の搭載は2001年のスズキのリリースに明記(出力の数字はありません)。一方、2007年の市販化の発表文は「2001年のコンセプトに完全に忠実」としつつ過給機には触れていません
- 同じ2008年モデルで並べると、最高出力135.0kW/145.0kW、乾燥重量235kg/220kg、燃料タンク16.5L/21LでB-KINGが不利です
- 車体本体価格はB-KINGのほうが94,500円高い(B-KING ABSと比べれば168,000円差)
- ただし後タイヤは200/50ZR17とハヤブサより10mm太く、全幅もホイールベースも上回ります
- 削られたのは動力性能側、残されたのは寸法とシルエット。どちらを取るかは、乗り手が決める話です
