Elegant Gentle RiderElegant Gentle RiderMISTER CLEAN — NOTES

バイクの技術と歴史を、一次情報にあたって確かめる記事を書いています

前のタンクは「飾り」ではなかった──V-MAXが航続距離と引き換えに買ったもの

ヤマハが1985年1月に配布した報道資料の原文をあたると、タンクに見える部分の中身も、燃料をシート下に置いた理由も、はっきり書かれていました。国内仕様とVブーストの関係も、公式で確かめられる範囲まで整理します。

「あれ、給油口どこ?」

ガソリンスタンドで店員さんが固まる。V-MAXに乗っていた方なら、一度は見た光景ではないでしょうか。

20年売られ続けたヤマハV-MAXを紹介した動画は、25万回再生されました。返信を含めて179件いただいたコメントのうち、23件が燃料と給油の話でした。ツーリングというよりガソリンスタンド巡りになる、という声です。

動画では、前にあるタンクらしき部分を「飾り」と説明しました。この言い方は、正確ではありませんでした。 ヤマハが1985年1月に報道向けに配布した資料をあたると、あの中身が何なのかも、なぜ燃料をシート下に追いやったのかも、はっきり書かれています。飾りではなく、置き場所の交換でした。

前に座っているのは、7リットルのエアクリーナー

資料の見出しは、そのものずばり「燃料タンク位置を大型エアクリーナーに」です。

吸・排気系の設計の狙いは、多量のエアの吸入と効率の良い燃焼、スムーズな排気にあり、このため吸気系では通常の燃料タンク位置をエアクリーナースペースとし、エンジン排気量のほぼ6倍に相当する7ℓの容量を持たせています。

排気量1,198ccに対して、吸気の箱が7リットル。エンジン6杯分の空気だまりを、いちばん都合のいい場所に置いたということです。ここに置けたから、35mmのキャブレター4基へ空気を素直に配れる。吸気バルブも30.5mmと大径のものが入っています。

では、外から見えているカバーは何なのか。別の節に書かれています。

燃料タンクをシート下に設けるにあたって、通常の燃料タンクに見られるものはキーロック付きのカバーにし、エアクリーナー、クーラントリザーブタンク、ヒューズを収納しています。

中身が入っています。 空っぽの張りぼてを載せていたわけではありません。コメント欄で、これをほぼそのまま書いてくださった方がいました。

視聴者コメント

タンクカバーの下はでっかいエアクリーナーが鎮座しとるで。

公式資料と一致しています。 メーターも、このカバーの上にタコメーター・水温計・警告灯をまとめて置き、ハンドル側にはスピードメーターだけを残す配置でした。

一般的なバイクとV-MAXの搭載物の配置を比較した模式図。一般車は前方の高い位置に燃料タンク15リットルがあり、V-MAXはそこに7リットルのエアクリーナーが入り、燃料15リットルはシート下の低い位置へ移っていることを矢印で示している
燃料とエアクリーナーが、場所を交換しています。飾りを載せたのではなく、順番を入れ替えた設計です

シート下の15リットルが買ったもの

燃料はシートの下です。資料には、その効果もはっきり書かれています。

燃料タンク容量は15ℓ。注入口はダブルシートの中央部、段差をつけたバックレスト部を前方へ倒すと現われます。(中略)燃料タンクをシート下に置いたことから、当然、燃料のレベル面が低くなり、重心高が高くなるのを防いでいます。

つまり、低い位置に燃料を置けた、という利得も同時に取っています。 キャブレターへは電磁ポンプで押し上げ、リザーブへの切り替えは電気式で、スイッチは右グリップホルダーにありました。

コメント欄に、ここを言い当てていた方がいました。

視聴者コメント

重心を下げる為って聞いたけど、タンクが小さくなっちゃったよね。

両方とも当たっています。 吸気量と低重心を買って、支払ったのが航続距離でした。

カタログの28km/Lと、100kmでのソワソワ

1985年の輸出仕様の諸元表には、こうあります。

15リットルで28km/L。単純に掛ければ420kmです。 ところが実際に乗っていた方々の数字は、まるで違います。

視聴者コメント

悪燃費に加えタンク容量が少ない確か15Lくらいでした。100kmぐらいからソワソワします

タンク容量15リットルという記憶は、諸元表どおりでした。では28km/Lは嘘なのか。そうではなく、条件が違います。 これは60km/hで平らな舗装路を淡々と走ったときの値で、当時の各社が同じ土俵で並べるための数字です。信号もなければ加速もなく、そしてV-MAXがV-MAXである領域も、当然使いません。

視聴者コメント

V-Boostのお陰でツーリングと言うよりGS巡り

このコメントが、いちばん多くの賛同を集めました。 動画のコメント欄で燃料と給油に触れた書き込みは23件あり、報告された航続距離は「100kmでソワソワ」から「200kmで空」あたりに集まっています。常時Vブースト状態に改造していた方からは、さらに厳しい数字も出ていました。

Vブーストは「6,000回転を超えたら」で終わりではない

動画では、6,000回転を超えると1気筒あたり2つのキャブレターで吸気する、と説明しました。開き始めの回転数は、そのとおりです。 資料には続きがあります。

その構造は70°交角で相対するシリンダー#1と#2、#3と#4のキャブレターをスペシャル・インテークジョイントで結び、そのジョイントパイプの中間にバタフライバルブを設置し、これをエンジン回転を検知して働くサーボモーターからワイヤーで開閉するシステムです。 約6,000回転でバタフライは開き始め、8,000回転で完全に開きます。

6,000回転はスイッチではなく、入口です。 そこから8,000回転までかけて、じわりと全開になる。だから「6,000でドカンと来る」というより、6,000から上でずっと押され続ける感覚になります。

理屈も資料に書かれていて、これがよくできています。#1が吸気行程にあるとき、対になっている#2は爆発行程にいて、#2のキャブレターは仕事をしていません。 その休んでいるキャブを、バタフライを開いて#1に貸してやる。結果、#1には2基から混合気が流れ込み、「高速域専用のビッグボアキャブレターを採用したのと同じ」状態になります。

Vブーストの作動を示した模式図。横軸がエンジン回転数で、6000回転からバタフライバルブが開き始め8000回転で全開になること、低中速では1気筒あたりキャブレター1基、高回転では2基が働くことを図示している
6,000回転は「開き始め」で、全開は8,000回転。隣の休んでいるキャブレターを借りる仕組みです

ここを一行で説明してくださった方がいました。

視聴者コメント

キャブレターの大口径化と同等に働く事により吸気抵抗の低減が可能となります。最初から大口径キャブにすりゃ良くね?となりますが、その場合低回転時には流速不足による不安定さが出てしまうのでサイズは小さめで高回転時には暇コイてる隣と合わせてシバキ倒すわけですね。

「暇コイてる隣」という言い方が、この機構の本質を一言で射抜いています。

日本で売られたV-MAXに、Vブーストは載っていたのか

ここは、動画で触れられなかった大事な点です。コメント欄でも20件がVブーストに言及し、そのうち複数が同じ指摘をしてくださいました。

視聴者コメント

VーBoostって輸出仕様にだけで国内販売車両には付いてなかったよな?

視聴者コメント

そもそも、というのであれば、このVブーストそのものが国内仕様には搭載されていない。ECUや配線カットなどで無効化してあるのではなく、そもそも載ってないのでどうにもならん。

順番に、確かめられるところまで確かめます。

ヤマハのコミュニケーションプラザが公開している1990年式VMAX(国内仕様)の諸元は、最高出力71.3kW(97.0PS)/7,000rpm、最大トルク110.8N・m/6,000rpm、重量264kg、当時価格890,000円。1985年の輸出仕様の145ps/9,000rpmと比べると、出力も、出力の出る回転数も違います。なおヤマハの表記は「重量264kg」で、乾燥重量か装備重量かは明記されていません。1985年の資料が乾燥254kg・装備274kgと分けて書いているのとは、表の作り方が違います。

ここまでが、ヤマハ公式から確認できることです。 そして公式の説明は、輸出仕様との違いをエンジン部品の一部だと述べるにとどまり、Vブーストの有無を名指ししてはいません。 出力も回転数も、キャブレターの設定や排気系、点火時期を変えれば動きますから、この数字だけでVブーストの有無は決まりません。

そのうえで、レッドバロンForRやバイク王Bike Life Labなど複数の専門メディアが、国内仕様はVブーストを搭載せず97馬力だったと明記しています。 コメント欄の指摘とも一致します。

公式が名指ししていない以上、断定はしません。 ただ、動画で主役に据えた機構が日本の正規販売車には付いていなかった可能性が高いことは、記事で補っておくべき点でした。

「20年」の中身

ヤマハは1990年式VMAXの紹介文で「20年以上にわたるロングセラー」と書いています。ただ、その20年は一本調子ではありませんでした。

国内仕様の終わり方について、レッドバロンForRの記事は「平成10年(1998年)の排出ガス規制をクリアできず、1999年モデルが最終型となって静かにフェードアウトした」「4200台弱が日本市場へ出回った」と書いています。これはメーカー公式の発表ではなく専門メディアの記述なので、そのまま事実として扱わず、出典を示すにとどめます。

いま、現物で確かめられること

V-MAXを持っていなくても、いま乗っている車両で確かめられることがあります。

1. 自分のバイクの「エアクリーナーの位置」を探す タンクの下か、シートの下か、サイドカバーの中か。吸気の箱がどこにあるかで、そのバイクが何を優先したかが読めます。 大きな箱を短い経路で置けているほど、吸気には有利です。

2. タンク容量と定地燃費を、取扱説明書で確認する どのバイクの諸元表にも、燃料タンク容量と燃費が載っています。古い車両なら「定地燃費(60km/h)」、近年の車両なら「WMTCモード値」という名前で載っていることが多いので、その言葉を探してください。掛け算した数字と、実際に給油ランプが点くまでの距離を比べてみてください。その差が、そのバイクの「使い方」そのものです。

3. 満タンからの実測を1回だけ取る 満タンにしてトリップをゼロにし、次の給油で入った量を走行距離で割る。1回で十分です。 ただし、給油をどこで止めるかで1リットル前後は変わるので、同じスタンドで、同じ止め方にそろえてください。カタログ値ではなく、自分の右手での数字が出ます。

4. 重い荷物を、どこに積んでいるか見直す V-MAXが15リットルの燃料を低い位置へ下ろしたのは、重心を上げないためでした。リアシートの上に重い荷物を高く積むのは、その逆をやっていることになります。 積み方を変えるだけで、車体の返りが変わることがあります。

コメント欄から

179件のコメントは、当事者の記録として読み応えがありました。

視聴者コメント

『かっこいいからヨシ』これに尽きる

いちばん賛同を集めたのが、これでした。 燃費も航続距離もぜんぶ承知のうえで、それでも、という話です。

視聴者コメント

VMAXが曲がらないのはタイヤのせいだったんじゃないかと今でも思ってる。見た目重視で合ってないタイヤ履いてた気がする

視聴者コメント

バイク屋で働いていた時、一度だけ試乗したが、峠で普通に良く曲がり楽しかった。ブレーキもちゃんと効くし、世間で言われる様な『曲がらない止まらない』って感じじゃなかったな。

ここは意見が割れました。両方載せておきます。 1985年の輸出仕様のタイヤサイズは前110/90-V18・後150/90-V15で、後輪が15インチと小径です。ブレーキは前ダブルディスク・後シングルディスクで、諸元表の「ブレーキ胴径又はディスク有効径」は前後とも250mmです。装備重量274kgの車体に対する構成をどう評価するかは、乗った年式・タイヤ・その人の基準で変わります。「曲がらない」と「よく曲がった」は、どちらも実体験なので、片方を否定できません。

視聴者コメント

給油の時ガソリンスタンドで店員さんが毎回驚くの楽しかったよ…シートがカシュて開くんよ…で給油口…

この開き方も、1985年の資料どおりです。 「注入口はダブルシートの中央部、段差をつけたバックレスト部を前方へ倒すと現われます。キャップはキーロック式です」。40年前の報道資料に書かれた動作が、そのまま思い出になっている、というのが少し面白いところでした。

出典

引用元

  • ヤマハ発動機 報道資料「スーパースプリント・アメリカン ヤマハVMX12(V-MAX)について」昭和60年(1985年)1月(通常の燃料タンク位置をエアクリーナースペースとし、エンジン排気量のほぼ6倍に相当する7ℓの容量/約6,000回転でバタフライは開き始め、8,000回転で完全に開きます/燃料タンク容量は15ℓ/燃料タンクをシート下に置いたことから、当然、燃料のレベル面が低くなり、重心高が高くなるのを防いでいます/通常の燃料タンクに見られるものはキーロック付きのカバーにし、エアクリーナー、クーラントリザーブタンク、ヒューズを収納しています/諸元表:145ps/9,000rpm・12.4kg-m/7,500rpm・乾燥254kg・装備274kg・定地燃費28km/ℓ〈60km/h〉・キャブBIS35×4):global.yamaha-motor.com
  • ヤマハ発動機 コミュニケーションプラザ「1990年 VMAX」(最高出力71.3kW〈97.0PS〉/7,000rpm・最大トルク110.8N・m/6,000rpm・重量264kg・当時価格890,000円/輸出仕様との違いをエンジン部品の一部と説明/20年以上にわたるロングセラーと記載):global.yamaha-motor.com
  • ヤマハ発動機 コミュニケーションプラザ「2008年 VMAX」(1,679cc・147.2kW/9,000rpm・311kg・当時価格2,310,000円):global.yamaha-motor.com
  • レッドバロンForR「VMAXという孤高の“魔神”【その5】」小川恭範・2025年1月18日(国内向けはVブーストを装着しない97馬力/1999年モデルが最終型/4200台弱が日本市場へ/逆輸入車版は2007年型が初代最終型):for-r.jp
  • バイク王 Bike Life Lab「YAMAHA VMAX」ノア セレン・2025年2月23日(Vブーストシステムを搭載せず、出力値は97馬力/タンク部はカバーのみで実際のタンクはシート下・容量15L):8190.jp

確認できていないこと

  • 国内仕様にVブーストが搭載されていなかったことを、ヤマハ発動機自身が明示的に述べた公式文書は見つけられませんでした。公式サイトの説明は、輸出仕様との違いをエンジン部品の一部と述べるところまでです。本文で断定せず、専門メディアを併記しているのはそのためです
  • サイドのエアスクープ状の部品の中身について、コメント欄では「右が水回り、左がリレー」との書き込みがありましたが、1985年の報道資料に記載はなく、確認できていません。資料が中身を明記しているのはタンクカバーの中身(エアクリーナー・クーラントリザーブタンク・ヒューズ)だけです
  • 国内仕様の年式ごとの詳細な仕様変更(キャリパーやフォークの変更時期など)は、コメント欄で複数の指摘がありましたが、一次資料で年式を特定できていません
  • 本文中の実燃費・航続距離は、いずれも視聴者の方の報告であって、測定されたデータではありません

本記事のチェックポイント

  • 前にあるのは飾りではなく、7リットルのエアクリーナーを収めたキーロック付きカバーです
  • 燃料をシート下の15リットルにしたのは、吸気の箱の置き場所と、低い重心を取るためでした
  • 支払った代償が航続距離です。カタログの28km/Lは60km/hの定地燃費で、実走とは条件が違います
  • Vブーストは6,000回転で開き始め、8,000回転で全開。スイッチではなく傾斜です
  • 国内仕様(97PS)にVブーストは載っていなかったと複数の専門メディアが書いています。ヤマハ公式は名指ししておらず、本記事も断定はしていません

← 記事一覧へ