Elegant Gentle RiderElegant Gentle RiderMISTER CLEAN — NOTES

バイクの技術と歴史を、一次情報にあたって確かめる記事を書いています

2020年に250cc4気筒を出す──ZX-25Rが背負った不利

17,000rpm以上を回す250cc4気筒。かつては各社が作っていたこの構成が、いまカワサキ1社しか出していないのはなぜか。公式リリースの数字から整理します。

「250ccで4気筒」

1980年代後半から90年代前半にかけては、各社が当たり前に作っていた構成でした。それが姿を消し、2020年にカワサキが1社だけで復活させた。

この記事で確かめたいのは、なぜ他社は追随しないのかという部分です。

まず、公式の数字から

カワサキのプレスリリースに書かれている内容です。

搭載技術も並べておきます。

開発の狙いは、こう書かれています。

サーキット走行性能の高さに加え、街乗りでの快適性を併せ持ったこのモデル

4気筒にすると、何が犠牲になるか

ここが本題です。250ccを4気筒にすると、分かりやすい不利を背負い込みます。

1つめ。部品点数が増える。 ピストンもコンロッドもバルブも、単純に2気筒の倍必要です。組み立ての手間も、部品の管理も増える。そのまま価格に乗ります。

2つめ。重くなる。 シリンダーが4つ並ぶので、エンジンの幅が広がり、重量も増えます。 車体も相応に大きくなります。

3つめ。低回転が苦手になる。 排気量を4つに割ると、1気筒あたりが小さくなります。小さい燃焼室は、低い回転数で力を出すのが不得意。 街中の常用域は、2気筒のほうが扱いやすい場面が多くなります。

4つめ。排ガス規制が厳しい。 高回転型のエンジンは、排ガスと騒音の両方で不利になりがちです。規制が年々厳しくなるなかで、これは重い制約です。

つまり、こういうことです

価格は上がり、重くなり、街中では乗りにくくなり、規制にも不利。

それでも4気筒にする理由は、ひとつしかありません。 回るからです。 そして、あの音がするからです。

ZX-25Rが250ccを4気筒にすることで背負う4つの不利と、引き換えに得るものの図。価格・重量・低回転の扱いにくさ・規制対応で不利になるが、17,000rpm以上まで回ることと4気筒の音は4気筒でしか手に入らない
天秤の左右をそのまま並べた図です。左の4つを許容できるかどうかが、選ぶ基準になります

17,000rpmという数字の意味

「17,000rpm以上の高回転域」という表現が、公式に使われています。

1分間に17,000回転。1秒あたり約283回転です。

4ストロークエンジンは、2回転に1回燃焼します。4気筒なら1回転あたり2回。つまり1秒間に約566回の爆発が起きていることになります。

人間の耳は、これを個別の爆発音としては聞き取れません。 連続した高い音として聞こえる。あの独特のサウンドの正体は、爆発の回数です。

そして45PSという出力も、この回転数があってこそです。排気量が小さい以上、力は稼げない。回転数で取り返すしかない。 RC166の時代から変わらない理屈が、ここでも効いています。

45PSという数字をどう見るか

「250ccで45PS」を、多いと見るか少ないと見るか。

現行の250cc2気筒は、おおむね35PS前後です。10PSほどの差があります。ただ、価格差はそれ以上になります。

ここで、選ぶ軸を整理しておきます。

どちらが優れているかではなく、何にお金を払いたいか。 ここがはっきりすると、迷いにくくなるのではないでしょうか。

なぜカワサキだけなのか

他社が追随しない理由は、上に並べた不利のとおりです。採算が合いにくい。

それでも出したということは、カワサキが「音と回転」に商品価値があると判断したということになります。性能表の数字ではなく、体験にお金を払う人がいるという読みです。

その読みが当たったかどうかは、これから中古市場に出てくる台数と価格が教えてくれるのではないかと思います。

コメント欄から

この動画には約150件のコメントをいただきました。オーナーの方の声が目立つ、あたたかいコメント欄でした。

視聴者コメント

小排気量高回転4気筒の甲高い音は本当にライダーをやる気にさせる。音だけ速いと良く言われるけど、リッタークラスになると物理的に速すぎてエンジンの美味しい所なんて使ったらすぐに死ぬ。燃費なんか気にせずガンガン回して乗りたい一台

この記事で書いた「体験にお金を払う」という話の、当事者による回答だと思います。 リッタークラスの美味しい回転域は、公道ではまず使えません。250cc4気筒は、全開にしてもライダーの技量と法定速度の範囲で楽しめる——「車重の割にめちゃ軽くて、4気筒で回しても法定速度」というコメントもありました。速さの絶対値ではなく、使い切れる領域の広さに価値を見る考え方です。

視聴者コメント

17000rpmしか回せないの?

公式リリースの表記は「17,000rpm以上の高回転域」で、上限が17,000rpmという意味ではありません。 レブリミットの具体的な数値は、リリースには記載がありませんでした。

視聴者コメント

ZXR250はレッドゾーン19,000rpmだったっけ?乗ったとき、は?ってなった

かつてのZXR250やバリオスの高回転ぶりを挙げるコメントも複数ありました。ZXR250のレッドゾーンが19,000rpmだったかどうかは、この記事では一次資料を確認できていません。 ただ、90年代の250cc4気筒が現行のZX-25Rに劣らず回るエンジンだったという証言が多数寄せられていることは、この構成が当時どれだけ本気で作られていたかの傍証だと思います。

出典

引用元

  • カワサキモータースジャパン プレスリリース「カワサキから、待望の250ccクラス四気筒モデル『Ninja ZX-25Rシリーズ』新登場」(2020年9月10日発売/水冷4ストローク並列4気筒/最大出力33kW〈45PS〉/17,000rpm以上の高回転域/センターラムエアシステム/KTRC/オートブリッパー付きKQS/アシスト&スリッパークラッチ/パワーモード/標準825,000円・SE 913,000円(税込)/サーキット走行性能の高さに加え街乗りでの快適性を併せ持つ):prtimes.jp

確認できていないこと

  • 最大トルクおよびラムエア加圧時の最高出力。上記リリースには記載がありませんでした
  • 現行250cc2気筒との出力比較に用いた「35PS前後」は一般的な水準を示したもので、特定車種の公式値ではありません
  • 価格は発売時のものです。現在の価格は販売店にご確認ください

本記事のチェックポイント

  • 2020年9月10日発売。33kW(45PS)、17,000rpm以上の高回転域
  • 4気筒化の代償は価格・重量・低回転の扱いにくさ・規制対応
  • それでも選ぶ理由は回ることと、音。ここに代わりはありません
  • 1秒間に約566回の爆発。あの音は爆発の回数そのものです
  • 選ぶ軸は「どちらが優れているか」ではなく「何にお金を払いたいか」

← 記事一覧へ