20,000rpmを常用できるようにしてから、19,000rpmで線を引いた──CBR250RR
44万回見ていただいた動画の補足です。MC22のレッドゾーンは19,000rpm。ですが開発陣は、まず20,000rpm常用に耐える設計を作り、そのうえで19,000rpmに線を引いていました。その順番の意味を整理します。
「19,000rpmまで回る250cc」
数字だけでも十分に異常です。動画では、その回転数を軸に構成しました。
補足したいのは、その19,000rpmが、どうやって決められたかです。
記録には、こう書かれています。
20,000rpm常用クリアしてから19,000rpmレッドゾーン設定した
限界まで回してみて、そこがレッドゾーンになったのではありません。 20,000rpmを日常的に使える状態を先に作り、そのうえで、余裕を残して19,000rpmに線を引いている。
順番が逆です。順に見ていきましょう。
まず、公式の位置づけ
MC22がデビューしたのは1990年です。
1990年、CBR400RRと共に究極の最終章として250ccでもCBR250RR(MC22)、ダブルアールがデビュー
そして、出力はこうなっています。
当時の自主規制値45PS/15,000rpm
45PSという数字は、性能の限界ではなく、業界の自主規制の枠です。エンジンの実力ではありません。ここは、当時の国産250ccを見るときの前提になります。
20,000rpmのために何をしたか
「20,000rpm常用」を実現するために行った内容が、具体的に記録されています。
開発陣は何と20,000rpmを常用できる高度化をまず進め、燃焼室の形状を吸気のスムーズ化と圧縮比を11→11.5へと高め、カムのリフト量も抑えるという手法で、クランクシャフトの慣性質量からコンロッドの強度に締め付けボルトの材質に軸受けメタルを薄肉化と、徹底して高回転化のポテンシャル底上げをはかった
並べてみると、手を入れていない場所がありません。
- 燃焼室の形
- 圧縮比(11 → 11.5)
- カムのリフト量
- クランクシャフトの慣性質量
- コンロッドの強度
- 締め付けボルトの材質
- 軸受けメタルの薄肉化
ボルトの材質と、メタルの厚みまで。
高回転化というのは、どこか1か所を強くすれば済む話ではありません。回転が上がると、すべての部品にかかる力が同時に増える。 どこか1つが弱ければ、そこが壊れます。
全部を、同じだけ引き上げる必要がある。 ここが、高回転エンジンを作ることのいちばん厄介なところです。
圧縮比とカムリフトの組み合わせ
面白いのは、圧縮比を上げながら、カムのリフト量は抑えている点です。
バルブを大きく開ければたくさん空気が入りますが、高回転ではバルブが追従しきれなくなります。 そこでリフトは抑え、代わりに圧縮比を上げて燃焼そのものの効率を稼ぐ。
回すことを優先して、他をそこに合わせている設計だと読めます。
なぜギア駆動なのか
MC22を語るときに欠かせないのが、カムギアトレーンです。
2本のDOHCカムシャフトを駆動するのは一般的なチェーンではなく、レーシングマシン専用と謳われてきたギヤ駆動。チェーンと異なり遊びがないため20,000rpmもの超高回転域でも、タイミングのズレない正確なバルブ駆動が可能だ
一般的なエンジンは、カムシャフトをチェーンで回しています。安価で静かですが、チェーンには伸びと遊びがあります。
低い回転数なら問題になりません。ですが20,000rpm付近では、そのわずかな遊びがバルブの開閉タイミングをずらします。 タイミングがずれれば、最悪の場合バルブとピストンがぶつかります。
ギアには遊びがない。 だから正確に回せる。その代わり、部品点数が増え、コストが上がり、あの独特の駆動音が出ます。
あの「シャリシャリ」という音は、正確さの代償というわけです。
45PSという枠の中で
ここが、MC22という機械の本質だと思います。
出力は45PSで頭を打っています。 自主規制です。他社の250cc4気筒も、同じ45PSでした。カタログの数字で差がつけられない。
では、何で差をつけるのか。そこに至るまでの過程です。
- どこまで気持ちよく回るか
- 回している最中に、どんな音がするか
- 高回転で、どれだけ正確に動いているか
同じ45PSでも、体験はまったく違う。 MC22が「走る精密機械」と呼ばれるのは、数字で勝負できない場所で勝負した結果だといえます。
いまの250ccは、数字で選べます。あの時代は、数字が全社横並びだったからこそ、数字にならない部分に投資が向かった。 規制が、かえって多様さを生んだ例ではないでしょうか。
出典
引用元
- RIDE HI「CBR250RR(MC22)は20,000rpm常用クリアしてから19,000rpmレッドゾーン設定した自信の超々高回転!」(20,000rpm常用クリアしてから19,000rpmレッドゾーン設定/2本のDOHCカムシャフトをギヤ駆動/チェーンと異なり遊びがないため20,000rpmもの超高回転域でもタイミングのズレない正確なバルブ駆動が可能/燃焼室形状の吸気スムーズ化・圧縮比11→11.5・カムリフト量を抑える・クランクシャフトの慣性質量・コンロッドの強度・締め付けボルトの材質・軸受けメタルの薄肉化/当時の自主規制値45PS/15,000rpm/1990年にCBR400RRと共にデビュー):ride-hi.com
確認できていないこと
- ホンダ公式によるMC22の技術解説ページ。メーカー自身の資料には到達できませんでした
- 車重・車体寸法などの詳細諸元は、この記事では扱っていません
本記事のチェックポイント
- 20,000rpm常用に耐える設計を先に作り、そのうえで19,000rpmに線を引いた
- 手を入れた場所は、燃焼室・圧縮比・カムリフト・クランク慣性質量・コンロッド・ボルトの材質・メタルの厚みまで
- 圧縮比を上げ、カムリフトは抑える。 回すことを最優先にした組み合わせです
- カムギアトレーンは遊びが無いため、高回転でもバルブのタイミングがずれません
- 45PSは自主規制の枠。 数字で差がつかないからこそ、過程に投資が向かいました
